部屋のないイエ

これは先月くらいに北の住まい住宅設計コンペで優秀賞をいただいたときのものです。

『“ひろ〜い家”...それは、ずっと遠くを内包しているよいうな、どこまでも続いていくような場所。

イエをどんどん小さくしてみる。モノの大きさは変わらないから空気の部分が押し出されていく。ついには、物とヒトの位相が入れ替わる。

さらにすすめていくと、空気は完全に外に押し出され、モノのための収納のヴォリュームだけが残ったとき、そこに最も小さくて、最もひろいイエができあがる。(本文抜粋)』

“ひろ〜い家”を設計してくださいという課題でした。
だからひたすら広いイエを想像するのです。
でもいくら考えど考えど一番広いイエはできあがりません。
いくらユーラシア大陸全土を埋め尽くすくらいの広いイエだってそれよりほんのちょっと、猫が通れるすき間分とか髪の毛一本分でも広いとそれに抜かれてしまう。
ずーっとひろくしていくとなにやら地球の半分くらいいったところでおかしなことが起こるんです。
もはやどっちが内部でどっちが外部がわからなくなってきます。さらに無理矢理推し進めると地球の反対側のある一点に収束し、ぱっと消えてしまう。
そのぱっと消えてなくなってしまう前の一瞬が一番ひろ〜いイエなわけです。

審査員の赤坂真一郎さんには「洋服の裏表をひっくり返した様な」と形容していただきました。
その一瞬のための操作は位相の転換なんです。建築の中に内在する物質と空間の位相、人とモノの位相の転換によってその一瞬が成立するのです。

ご清聴ありがとうございました。